介護をしていると、心も体も、静かにすり減っていきます。
それでも踏ん張る毎日の中で、ふと誰かにかけられた「一言」が、思いもよらないほど大きな影響を与えることがあります。
優しさに救われることもあれば、なにげない言葉に深く傷つくことも──
今回は、私自身が介護中に受け取った“忘れられない言葉”と、そのとき感じたことを綴ってみます。
◆「後悔しないようにやればいいんだよ」
ある人が私にかけてくれたこの言葉。
一見すると、やさしく背中を押すような、励ましの言葉かもしれません。
でもそのときの私は、睡眠不足と心の疲労で限界寸前。
「もう十分がんばってるのに、これ以上なにをすれば“後悔しない”って言えるんだろう」
そんなふうに、自分をさらに追い詰める言葉として胸に刺さってしまいました。
その言葉が悪いわけじゃない。
けれど**“その時の私”にとっては、優しさには聞こえなかった**のです。
◆「慣れてもらわなきゃ困るわ」
これは、身内から言われた一言です。
新しい介護の流れにようやく慣れてきた頃、ぽつんと吐かれました。
「もう慣れてもらわなきゃ困るわ」
その瞬間、一気に心が崩れ落ちました。
気持ちがついていかないまま必死でやっていた自分を、誰も理解してくれていなかった──そんな孤独感と絶望に襲われました。
いまでも、この言葉だけは忘れられません。
たった一言が、信頼や絆までも断ち切ってしまうことがある。 それを痛いほど感じました。
◆「後悔していいんだよ」
ある日、何気なくつけていたラジオから流れてきた言葉です。
有名な誰かが話していたような、そんな記憶もあいまいなまま──でも、心にすっと染み込んでいったのを覚えています。
「後悔していいんだよ」
ああ、いいんだ──。
完璧じゃなくて、間に合わなくても、うまくできなくても。
後悔してもいいって、自分に許しを出してもいいんだって。
この言葉は、今でも私の心をふっと軽くしてくれる魔法の言葉です。
◆ 言葉の重みは、受け取る人の状態で変わる
同じ言葉でも、それを受け取る人の「こころの状態」や「タイミング」で、その意味は大きく変わります。
- 元気な時には励ましに聞こえる言葉が
- 弱っている時には責めに聞こえてしまうこともある
だからこそ、介護者に言葉をかけるとき、“正しいこと”よりも“寄り添うこと”が大切なのだと思います。
◆ 安易な声かけは、ときに刃になる
介護をしている人にとって、「がんばってね」「しっかりして」などの何気ない声かけも、プレッシャーに変わることがあります。
悪気がない言葉こそ、注意深く選ぶ必要があるのです。
そっと「大丈夫?」「疲れてない?」と聞くだけでいい。
言葉にできないなら、静かに隣にいるだけでもいい。
声をかける側も、勇気がいるかもしれません。
でもどうか、安易な励ましではなく、やさしいまなざしと言葉を届けてほしい──そう願っています。
◆ 最後に:あなたの心にも、やさしさを向けて
介護をする人は、他人のためにたくさんの時間とエネルギーを注いでいます。
だからこそ、自分の心にもやさしい言葉をかけてあげてほしいのです。
「つらかったね」
「よくやってるよ」
「今日はここまでで、もう十分」
それは他人からもらってもうれしいけれど、自分自身が自分に言ってあげるだけでも、救いになります。
あなたが抱えてきた言葉、背負ってきた思いが、少しでも軽くなりますように。