以前参加した介護の研修で、ずっと心に引っかかっていた言葉があります。
高齢者の健康状態を把握するためのチェック項目として、「食欲はありますか?」「よく眠れていますか?」といった質問と並んで、「性欲はありますか?」という項目があったのです。
正直、そのときは少し驚きました。
高齢者と性欲が、すぐには結びつかなかったからです。
ですが、研修を通して知ったのは、高齢者の「性欲」は特別なものではなく、“生きる意欲”や“人とのつながりを求める力”の一部として捉えられているという考え方でした。
私たちは「性欲」と聞くと、恋愛や性的関係など、どちらかといえば若い世代のものをイメージしがちです。しかし本来、性に関する欲求はもっと広く、「誰かと関わりたい」「大切にされたい」「自分もまだ魅力ある存在でいたい」と願う、人間の自然な感情を含んでいます。
例えば、身だしなみに気を配るようになる、特定の人に会うのを楽しみにする、手を握るなどのスキンシップを求める――こうした行動も、人との距離を縮めたいという気持ちの表れです。そこには、安心感を得たい、孤独を感じたくない、社会とのつながりを持ち続けたい、といった切実で人間らしい思いがあります。
また、こうした欲求が保たれていることは、実は健康のバロメーターにもなるそうです。一般的に食欲・睡眠欲・性欲は「三大欲求」と呼ばれ、どれかが極端に低下している場合、心身のエネルギーが弱っているサインである可能性があります。反対に、人や物事への関心があるということは、「まだ生きる力がある」という前向きな状態ともいえるでしょう。
一方で、介護の現場では性に関する言動に戸惑うこともあります。加齢や認知機能の変化によって、距離感が分かりにくくなったり、感情のコントロールが難しくなったりすることがあるからです。しかし、その行動を単なる問題として見るのではなく、「寂しい」「誰かにそばにいてほしい」「自分の存在を感じていたい」というメッセージとして理解する視点が大切なのだと学びました。
近年の介護では、「性的尊厳」という考え方も重視されています。年齢を重ねても、人を好きになる自由や親密な関係を築く権利、自分の身体を尊重される権利があります。高齢者をただ守るべき存在としてではなく、一人の人間として尊重する

